短期国債買い入れ措置停止は重要か、コロナウイルスの陰で

コロナウイルスを巡る不確実性で市場が揺れる中、1月のFOMCではFedから短期国債の買い入れ規模縮小を第2四半期に開始するというアナウンスがあった。これに伴い、流動性供給期待を根拠とした株価上昇シナリオは見直される必要がある。

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これまでの経緯

最初に近年の米国の金融政策の動向を時系列で振り返ってみたい。

2015年12月にFRBは9年半ぶりに利上げを行い、金融環境の正常化に乗り出した。その後緩やかなペースで段階的な利上げが進められる中、正常化の次のステップとして、2017年秋からFedはバランスシート規模を縮小する「量的引き締め」政策に着手した。

2018年後半に株式市場が下落傾向を強めると、パウエル議長は当初、株価下落の原因は金融引き締めではないという姿勢を示した。この宣言の通りに12月に利上げが敢行されると、米国株の下落幅は20%に至った。パウエル議長は金融政策の誤りを認めることになり、バランスシート縮小政策は2019年9月で停止されることが発表された。

Fedの金融引き締め撤回を受けて2019年の株式市場は記録的な上昇となったが、2019年9月にレポ市場の金利が急騰し、今度は短期金融市場で問題が顕在化した。Fedはレポ金利急騰の原因が超過準備の減少にあると考え、10月から短期国債の買い入れを開始した。超過準備とは市中銀行が準備預金制度で定められた額を上回って中央銀行に預け入れている資金であり、これが不足したことで短期資金受給が逼迫したという解釈である。

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以下が超過準備額の推移である。2014年頃から一貫して減少し続けていた超過準備が2019年9月を底に増加し始めている。

短期国債買い入れ終了の意味

今回の会合で短期国債買い入れ措置が予定通りに終了されると発表されたということは、Fedは超過準備の額が十分に増加したと認識しているということである。これ以上に超過準備を増やす必要はなく、この水準を維持できれば短期金融市場で問題は再発しないと考えているのである。

今回の措置を巡っては、これが量的緩和の再開かどうかという議論があった。パウエル議長からは、①一時的な措置であり、②目的は超過準備の増加であり、③買い入れ対象は短期国債に限られるため、量的緩和ではないと説明された。

これに対する主な反論としては、①FRBのバランスシートが拡大することに変わりはなく、②短期国債の買い入れで十分に超過準備を増加させられなければ、より長期の債券を買い入れなくてはならない可能性がある、という指摘があった。このように考える人が決して少なくなかったことが、2019年後半の株高基調から伺える。

結果として少なくとも現時点では、短期国債の買い入れで十分な超過準備が確保され、これ以上のバランスシート規模拡大はなくなったということになる。

Fedの主張と異なる市場の反応

というわけで、Fedのバランスシート規模拡大や本格的な量的緩和の再開を見込んだ戦略は見直しを迫られることになった。しかし金融市場にとって本当に重要なのは、Fedが実際に何をしているかではなく、市場参加者がそれをどのように認識しているかである。

金利先物市場では2020年中の利下げを約90%で織り込んでおり、当面の政策金利変更はないというFedの自己主張とは異なっている。また米国の長期金利は急速に下落しており、市場にはFedへの不信が残っている。超過準備が現在の水準で本当に十分なのか分からないし、一度始めた緩和政策を停止するのは簡単ではなかったはずである。

もっとも、これらの動きには新型コロナウイルスの感染拡大による不確実性が大きく影響していると予想できるため、その分を取り除いた動きは観測不可能である。

長期金利の下落ぶりに比べると米国株の下落幅はまだ限定的である。

金融緩和期待の剥落はそれほど深刻ではなかったということだろうか。一方でコロナウイルスの感染拡大が収束に向かうまでにはまだ時間がかかりそうであり、そもそも正確な被害状況が分かっていない。株式市場にはまだ下値余地がありそうである。これが本格的な下落につながっていくのか、適度な冷や水にとどまるのか、今のところは様子見である。