2020年、日欧のマイナス金利解除はあるか

昨年12月19日にスウェーデンの中央銀行が政策金利をマイナス0.25%から0%へ変更し、5年にわたるマイナス金利政策を終了した。イングベス総裁は景気減速リスクよりもマイナス金利の悪影響を懸念する考えを示した。

スウェーデン中銀はマイナス金利を最初に採用した中央銀行であり、その他の先進国はこの流れに続く形でマイナス金利を導入してきた。現時点でマイナス金利政策を採用しているのはECB(-0.5%)、スイス(-1.25%)、デンマーク(-0.75%)、日本(-0.1%)などである。

日本や欧州の投資家は国内の低金利環境を理由に米国債など海外資産の保有を増やしてきた。マイナス金利が解除され、国内の利回りが改善すれば、日欧の投資家は米国債から一定の資金を引き上げるだろう。結果として米国の長期金利が上昇すれば株式市場にマイナスの影響を及ぼす。スウェーデン中銀の行動はそのきっかけになり得るのである。

マイナス金利の弊害

マイナス金利が経済にもたらす悪影響についてはかねてから指摘されてきたが、そのポイントは大きく3つに分けられる。

一つ目は銀行の収益性を圧迫するという指摘である。伝統的な商業銀行のビジネスとは預金者に払う利子よりも高い利率で貸し出しを行うことである。したがって、長短金利差が銀行の利鞘となる。マイナス金利導入によって長期金利が低下したり、銀行が中央銀行に持っている準備預金に適用される金利が低下すると銀行の収入は減少することになる。最近ではドイツ銀行の融資収入減少が報じられている。

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2つ目は年金基金や保険会社への影響である。年金基金や生命保険会社は保有する資金を国債などの形で運用している。マイナス金利の影響で国債の利回りが低下すれば、運用から得られる利益が減少する。例えば日本国内の生命保険会社が国債利回りの低下を受けて、運用資金を海外資産や高リスク資産に移していることが報じられている。

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3つ目は個人消費への影響である。銀行や生命保険会社への悪影響について言えば、それらの影響を相殺できる分だけ預金金利を引き下げたり、保険料を値上げすることで収益を確保することは可能である。しかしそれは低金利の悪影響を預金者や保険加入者へ転嫁しただけであり、代わりに個人消費が減少することになる。

他にも、マイナス金利が恒久的な状況だと認識されることで無秩序な借り入れにつながる恐れなどもある。こうした議論から、マイナス金利政策は金利低下による景気浮揚効果よりも副作用の方が大きいのではないかという見方がある。

ECBの動向

ECB(欧州中央銀行)は昨年12月12日の政策決定会合で中銀預金金利をマイナス0.5%で維持した。ECBは9月の会合でマイナス金利の深掘りと量的緩和の再開を実施したばかりであるため、しばらくは影響の見極めに徹すると見られている。

11月に就任したラガルド新総裁は2003年以来となる戦略再評価を20年末までに完了させる構想を表明している。戦略再評価とは長引く低インフレの要因について改めて検証を行い、「2%前後の消費者物価上昇率」というインフレ目標が妥当であるかを再検討するという意味である。この再評価の結果が出るまでは、ECBの金融政策に大幅な変更があるとは考えづらい。

日銀の動向

日銀もECBと同様に金融政策をしばらく据え置くと見られている。マイナス金利政策の副作用を懸念する姿勢を示してはいるが、政策金利は維持したまま別の手段で副作用を緩和する方針のようである。

12月の政策決定会合後の会見で黒田総裁は、「2%の物価目標は堅持必要」「マイナス金利の深堀りは必要あればあり得る」と発言している。これ以上の緩和が不可能であることを自覚しているからこそ、こう発言するしかないのだろう。利上げについて少しでも触れれば相当な円高を招く可能性があり、黒田総裁にできることは何もない。日銀がマイナス金利を解除する可能性はおそらくECBよりも低く、米国利上げ再開のような展開にでもならない限りチャンスはないだろう。

まとめ

現時点ではECBも日銀もマイナス金利政策を解除する可能性は低い。しかし副作用が経済にもたらす悪影響がより強く認識されれば、いずれ後戻りを迫られることになるかもしれない。そうなったときそれは金融引き締めとなるが、2015年以降の米国の利上げのような経済の好調ぶりを理由とした引き締めではなく、中央銀行の金融緩和が一つの限界に達したという意味での引き締めとなる。この違いはとてつもなく大きいだろう。