Brexit目前、英国経済の将来は暗いのか

10月末のEU離脱を控えて、英国のEU離脱の合意あり/なしを巡って市場が荒れている。筆者自身はどちらかといえば英国のEU離脱は正しい選択だったと考えているが、過去に事例がない以上、見通しは不確実である。しかし、少なくとも以下の記事で言及したように現在のユーロ圏は構造上の問題を抱えており、その解決を先送りにしている状態であるように思う。

そもそも英国は歴史的に大陸欧州とは一定の距離を置いてきたのであり、EU(当時はEC)への加盟も「欧州で二度と戦争を起こさない」という政治的理念に基づくものではなく、どちらかと言えば経済的メリットを目的としたものであった。英国のこの一歩引いた距離感は単一通貨ユーロを採用しなかったことや、出入国審査なしに国境を越えることを許可するシェンゲン協定に参加しなかったことにも表れている。

今回のEU離脱の根本にある考えも、EUにとどまることで得られる経済的メリットに十分な価値がないという判断だろう。何に対しての価値かといえば、英国がEUに加盟することで支払っている拠出金や移民による弊害、税制面の様々な制約などに対してである。メリット/デメリットをトータルで見たときに割に合わないから離脱するのである。

しかしEUに加盟していることのメリット/デメリットの話と、EU離脱のショックが英国に与えるダメージのことは分けて考えなければならない。ここではEU離脱によって英国が受ける経済的な不利益として指摘されているものを整理したい。

EUとの貿易協定の見直し

英国に続いて他の離脱国が出ることを防止するためにも、EUは離脱後の英国との貿易協定に関して厳しい姿勢で臨んでいる。単一市場へのアクセスを失い、EU加盟国向けの輸出に関税がかけられれば英国の輸出産業が大きな打撃を受けるとの指摘は正しいだろう。

しかし、英国の貿易収支について過去の推移を見れば、EU加盟主要国に対しては貿易赤字の状態である。つまり、英国との貿易が減って困るのはむしろ英国に対して貿易黒字を計上しているドイツのほうであり、EUの強気の態度と実状は必ずしも一致しない。EUの制約を受けずに他国と独自に貿易協定を結べる状況なら、英国はドイツの代わりに米国や中国との貿易を増やすことが可能であるし、トランプ大統領はそのような動きを大歓迎するだろう。

EUが英国に対して関税をかけることは、EUから英国への輸出品にも同等の課税がなされることを意味する。英国を主要な輸出先としているドイツにとってこの状況は望ましくないため、おそらく関税は見せしめとしての体裁を保てる範囲で、出来る限り低く設定されることになるだろう。

多国籍企業の撤退

英国に拠点を置き、EU加盟国向けにビジネスを行う多国籍企業が拠点を英国外に移してしまう懸念があることも大きな問題である。英国経済の中心を担う金融業界を中心に、企業が国外へ流出することで雇用も投資も税収も減ることになり、その影響は英国経済にとって極めて大きなものになる可能性がある。

しかし話はそう単純ではない。EU加盟国は税制面で大きな制約を受けており、税率を自由に決定することができないようになっている。その理由については租税回避対策のためとされているが、より正確には加盟各国の税率を高く維持するためである。ある国が自国に事業を誘致するために法人税を下げれば、他の国も競争的に税率を下げる必要が出てくる。そうなると加盟国全体の税率水準が低く保たれてしまう。予算の大きさはそのまま利権の大きさであり、加盟国内やEUの官僚にとってこのような事態が起きては困るのである。

英国はEUから離脱することで租税を自由に決定できる道を選択した。多国籍企業に対してEU加盟国よりも低い法人税率を設定することは、企業が英国にとどまるに十分な理由となるかもしれない。

国際金融センターとしての地位

ロンドンは現時点で世界最大級の国際金融センターであるが、この点についてもEU離脱によってその地位が揺らぐことになると指摘されてきた。実際にロンドンからパリ、フランクフルト、ダブリン等への資金や人的資本の移転は進んでいるようである。

EU離脱に伴ってロンドンの金融センターとしての地位が低下するのは間違いないだろう。しかし、それが致命的なものであるかどうかには議論の余地があるのではないか。

そもそも、ロンドンは英国のEU加盟より前から国際金融センターだったのであり、EUから抜けることで全てが失われるわけではない。1986年の金融ビッグバンに代表されるように、金融サービス業は英国が国を挙げて戦略的に取り組んできた産業である。最近では人民元のオフショア金融センターとしての地位を着々と固めるなど、将来を見据えた取り組みが行われている。EU域内における金融センターの座はパリなどに奪われたとしても、EU以外の欧州、中東、アフリカなどの地域において今後もその地位を維持することは十分に可能だろう。

ポンド相場はどうなるか

以上のように、筆者は今回の離脱によるショックは英国経済にとって、主要メディアで扱われているほどにはネガティブなものではないように感じている。合意なき離脱が現実に近づくにつれて、為替市場ではポンドを中心とした投機的な激しい値動きが見られる可能性がある。もしも市場が英国の将来を悲観してポンド安の方向に大きく振れるならばポンドの買いを考えたいが、今回の記事はあくまでBrexitの影響に関する定性的な分析である。