株価と関税のトレードオフ、トランプ政権と投資家の温度差

米中の通商問題の早期解決が絶望的になり、金融市場ではリスクオフの動きが続いている。

中でも注目すべきなのが、米国の長期金利の低下が止まらないことだ。止まらないどころか下落の勢いは増しており、現在は2.1%台前半まで下がっている。

この他にも為替市場はドル高、コモディティ市場では金価格が上昇し、銅や原油が下落するなど、典型的なリスクオフ相場になっている。トランプ政権が各国に仕掛ける通商交渉がエスカレートしており、世界経済の先行きに大きな懸念をもたらしているというのが最も一般的な解釈だろう。

米国の主要株式指数であるS&P500について言えば、1ヶ月前につけた最高値から10%弱の下落率となっている。

今のところは、昨年末からの一気の上昇に対して5月から大きめの調整が入ったとみなせるレベルである。現在の下落の原因が通商問題であるならば、今後の株価の推移はトランプ政権が決めることになる。ではトランプ大統領は現在の株価についてどう考えているのか。

鍵となるのが5月30日のツイートで表明した、メキシコからの全輸入品に対する5%の関税である。この関税はメキシコからの不法移民流入が改善されない限り、毎月5%ずつ上昇するとされており、10月に最高で25%まで上昇する。中国との入念な通商交渉と異なり、全製品に対して課税し、極めて短期の間に25%まで上昇させるという内容を見れば、さすがに本気ではないと思われる。何らかの形で外交的な勝利が得られれば速やかに撤回するつもりのパフォーマンスなのだろう。

問題は株価が下落している状況でその原因となっている貿易摩擦をトランプ大統領自ら悪化させたという点だ。トランプ大統領は株高を自らの経済政策の成果として主張してきた。来年の大統領選での再選のための大事なアピールポイントなのである。その株価を犠牲にしてまでのメキシコ関税発言は何を意味するのか。つまり、トランプ大統領は10%程度の株価下落と引き換えに強硬な対外姿勢を有権者へ示せるならそのほうが良いと考えている可能性がある。あるいは、株高が行き過ぎて大規模にクラッシュするくらいなら、調整を受け入れて現在の株価水準を維持する方針なのかもしれない。忘れてはいけないが、米国の主要株式指数はなおも史上最高値付近なのだ。

トランプ大統領が許容する株価の下落率がどの程度なのかわからないが、株式市場の下げが止まらなかったときには、対外姿勢を軟化させることである程度は歯止めをかけることができるだろう。しかしそのときに、政治的な理由で振り上げた拳を下ろせなくなっていたらどうなるだろうか。対中姿勢がどうしても緩められない場合に、日欧やイラン、メキシコへの姿勢を軟化させることで市場の動揺を抑えられるだろうか。状況が段々と複雑になり、見通しが悪くなってきている。

ただ現時点では、長期金利の急落に見られるように市場の悲観ぶりは十分すぎるくらいだといえる。このような状況ではクラッシュのような株安が起きる確率は低いし、行き過ぎた長期金利が底を打つほうが早いだろう。FRBが様子見姿勢を決め込んでおり、金融政策に大きな変化が期待できない状況では、トランプ政権の対外姿勢が株価に対応してどう変化するのかを注意深く見守りたい。