上がらない長期金利、米国株が史上最高値を更新

米国の主要株式指数S&P500が昨年10月の急落前の水準まで回復した。

昨年後半の下落分をすべて取り戻したことになる。上昇のペースは徐々に落ち着いてきているものの、急落前の時期のチャートと比べるとより早いペースで上昇してきたことが分かる。

米国株の強さの最大の要因は米国の長期金利が低く保たれていることである。急落前は3%を超えていた長期金利は現在2.5%前後で推移している。仮に今の株価水準が株価収益率などのファンダメンタルズ面から見て割高であったとしても、比較対象である米国債の利回りが十分に低いのであれば、さらなる株高も正当化され得る。

米株高の理由が米国の長期金利の低さだとすれば、米国の長期金利が低い理由はドイツの長期金利がさらに低いことである。

ドイツに限らず、欧州各国の国債の利回りが低ければ一部の資金はより高い利回りを求めて米国債を選好することになる。そして欧州の長期金利が低い理由はおそらく実体経済の低調ぶりにある。

長らく欧州経済を牽引してきたドイツ経済が減速しており、景気後退入りの予兆を見せている。ドイツのショルツ財務相はドイツ経済の減速の原因について、米国による貿易摩擦や英EU離脱を巡る不確実性などの外部要因であるとしており、現時点では財政出動の考えがないことを主張した。

独財務相、景気刺激目的の債務増に反対表明 「減速は外部要因」

これに先立ってECBは利上げ開始の先送りを表明したことに加え、域内の金融機関への流動性供給を意味する長期リファイナンスオペを9月に開始することを決定した。しかし、財政政策の支えなしには欧州経済の減速が根本から止まることはなく、その分だけ金融政策側の緩和姿勢が継続されることになるだろう。

以下に示す経路が現在の株高に対する一つの解釈である。

独経済減速 -> ECB金融緩和継続 -> 独長期金利低下 -> 米長期金利低下 -> 米株高

ドイツの長期金利が低い間は米国の長期金利も定位にとどまらざるを得ず、長期金利が低いままであれば、株式市場において急落は起きても暴落は起きない。では米国の長期金利が上昇するシナリオが他にあるかといえば、それはインフレ率の上昇によってFRBが金融引締めに動かざるを得なくなる場合である。

まず現時点ではインフレ高進の兆しはなく、FRBのパウエル議長も今後の政策金利の動向について様子見姿勢を強調している。

最新の米国労働統計局のデータによれば、インフレ率の上昇を牽引しているのはエネルギー関連を除くサービス(2.7%)である。米国の賃金上昇率は3%台で上昇基調にあり、特にサービス業の上昇率は高くなっている。米国の労働市場はかなり以前から完全雇用の水準にあり、賃金上昇率は金融危機前のレベルまで戻りつつある。

一方で、もう一つの代表的なインフレ要因である原油価格は確かに上昇しているものの、前年比で見れば未だマイナス圏にある。2018年の$65-$75の水準を大きく超えてこなければ前年同月比のインフレ要因にはならず、そうなる確率は高くないだろう。

最後にドルの推移を見てみる。FRBのハト化姿勢にも関わらず、日欧を始めとして世界の中央銀行が同様に、あるいはFRB以上にハト化したため今のところはドル高の傾向が続いている。ドル高は輸入物価の下落を通じて、インフレを抑える効果がある。

以上をまとめると、欧州経済の減速を理由に長期金利が低く保たれやすい環境になっており、結果として株高基調がしばらく続く可能性が高い。労働市場の引き締まりとともに米国の賃金上昇率は高まっているが、長期金利の上昇を促すようなインフレ高進の気配も今のところはない。

他に注目すべきポイントとしてトランプ大統領がイラン原油の禁輸措置を撤廃したことがある。

米、イラン原油全面禁輸へ 日本などへの適用除外を5月に撤廃

イランの原油輸出を封じることによって原油市場への供給が減少する。原油高はインフレ率を通じて長期金利を上昇させ、株式市場の下落につながる恐れがあり、トランプ大統領としては避けたいシナリオのはずである。それでもイラン産原油の禁輸に踏み切ったということは、イランを敵視するサウジアラビアなどの主要産油国と裏で価格合意が取れているのかもしれない。その場合は原油価格の上値は限られるだろう。または、さらなるドル高を容認することで代替するつもりなのかもしれない。