米国の利上げ停止は量的緩和バブル崩壊を防ぐか

FRBのパウエル議長は28日の講演の中で、これまで「中立金利まで長い道のりがある」としていた政策金利の水準について、中立金利を「わずかに下回る」水準にあるという認識を示した。

これが利上げ停止時期が近づいたサインと捉えられ、金融市場では長期金利が低下し、株高が進んだ。

今回のパウエル議長の発言を受けて、市場が織り込む利上げの度合いが低下したこと自体は適切な反応だろう。そして長期金利が低下した分だけ、株価が上昇したことも理解できる。

しかし、この3年間で政策金利が引き上げられていることは事実であり、もう一つの引き締め要素であるバランスシート縮小は着々と実施されている。米国の利上げ停止が株式市場にとってポジティブ要因であるとしても、株価の継続的な上昇を正当化することはない。

金融市場には多数派の投資家にとって好ましい情報を強調し、都合の悪い情報を無視する傾向がある。だから、パウエル議長の発言を理由に、解釈として適切かどうかによらず、今の水準から株高が進む可能性はある。そうなった場合、市場には楽観的な投資家が未だ多数存在しているということを意味し、したがって株式市場のバブル崩壊の時期がずれ込むことになる。今週の値動きはそういった雰囲気を予感させる。

そうした株式市場の楽観が続く条件は、株式市場のクラッシュや米国実体経済の減速などのイベントに際して、FRBが利上げやバランスシート縮小をいつでも停止できるという状況が保たれていることである。例えば今の状況で、米国でインフレが加熱し、それに合わせて長期金利が上昇したとしたらどうか。FRBは金融引締めを簡単には緩められなくなる。そういう状況に追い込まれてこそ、米国株に投資する投資家に逃げ道はなくなり、今度こそ株式市場のバブル崩壊は避けられなくなる。

米国では低い失業率が賃金を押し上げ始めており、それに伴いインフレ率は2%を超えるようになってきているが、まだ大きな問題とはなっていない。金融危機後に多くの先進国がデフレから抜け出せずに苦しんだこともあり、2%をオーバーシュートすることを許容する主張も少なくない。

為替市場ではドル独歩高と言える状況が続いており、原油価格の下落と共に、インフレ率の上昇を抑える役割を果たしている。先進国の中でまともに金融引締めを進められているのが米国のみである以上、他に買える通貨がない。仮に利上げが停止されても、ドル安は一定の範囲に留まるだろう。

FRBから利上げ停止の時期が近づいていることが示され、その障害となりうるインフレ率も今のところ問題になりそうもないとすれば。これは株式市場にとって都合の良い展開である。短期的に米国株に強気のムードが戻ってきそうな気配がある。

ただし忘れてはいけないことは、各リスク資産市場からの資金流出は止まっておらず、FRBは市場から資金を引き上げ続けている。米国の主要株式指数という表面だけを見て、株式市場は試練を乗り越えたと考えるのは間違いである。問題がほんの少し先送りされただけに過ぎず、むしろ、もう一度空売りの機会が与えられる可能性が出てきたと捉えるべきだろう。