金融市場でレバレッジ消失が顕在化

今週、世界の株式市場が下落した。

主要な先進国の株式市場のチャートは以下のようになっている。

欧州の株式市場はすでに下落トレンド入りしているが、日米の株式市場はなおも歴史的な高値圏にある。下落幅だけを見れば、あくまで短期的な市場の調整に過ぎず、騒ぐほどのことではないように思える。

何が問題なのかというと、この動きの裏で、米国の長期金利が3.2%台まで上昇しているのだ。

一般的な解釈として、株式市場の下落の原因が投資家のリスク選好ムードの後退であれば、株式市場から流出した資金は米国債を代表とする安全資産へ流入し、結果として長期金利が低下する。しかし、今回は長期金利が上昇している。

では逆に、リスク選好ムードの強まりによって、資金がよりリスクの大きな資産へ流れたのか。先進国よりもリスクが大きい新興国の株式市場を見てみると、同様に下落している。むしろ、下落の勢いはより強くも見える。

これらの市場から流出した資金はいったいどこへ行ったのか。金融市場のこのような動きを説明する一つの可能性としてだが、資金はどこにも行かず、消えてしまったのかもしれない。

順を追って説明すると、金融危機以降の量的緩和政策によって、国債の金利が人為的に引き下げられると、十分な金利収入を得られなくなった投資資金はよりリスクの高い市場へ向かわざるを得なかった。行き先は先進国の株式市場だけでなく、新興国市場やハイイールド債市場などであった。

やがて量的緩和政策が終了し、現在の金融引き締め環境が整うと、上記とは逆のことが起こった。国債市場から中央銀行のマネーが引き上げることで金利が上昇し始め、緩和政策によって国債市場から締め出されていた投資資金が戻ってきた。国債の利回りが十分に上昇すれば、わざわざリスクの高い資産を保有する必要はないからである。こうして、2018年の金融市場を見れば明らかな通り、リスクの高い市場から順に資金流出が起きている。

このとき起きていることを単純化すれば、それは株式市場と国債市場の資金の奪い合いである。つまり、リスクオンなら国債から株式へ資金が移動して株高金利高となり、リスクオフならその逆で株安金利低となる。しかし、現在の市場で起きていることはこのどちらにも当てはまらない、株安金利高である。株式市場からも、国債市場からも資金が流出しているのである。そしてその資金はどこへ行ってしまったのかという問いに対する答えの一つが、資金は消えてしまったというものだ。

資金が消えるとはどういうことか。そもそも投資資金とは、投資家の手持ち金だけではない。信用取引のような、借り入れによってレバレッジを効かせた投資が行われるからである。金融緩和によって借り入れ金利が低く抑えられていれば、借りられるだけの資金を借りて、金融資産を保有するやり方が経済合理性を持つのである。

信用拡大の局面では、この仕組みによって、金融市場に投入される資金が何倍にも膨れ上がっている。金融危機以降の市場がこれである。人為的な低金利によって世界中で債務が拡大し、金融資産の価格が上昇し、株式市場は歴史的な高値圏まで持ち上げられた。

しかし、米国が金融緩和をやめ、金融引締めに転換したことで状況は変わった。長期金利が上昇して、借り入れ金利が高まると、レバレッジを用いた投資のコストが上昇する。金融資産の価格下落によって利回りが改善されなければ、借り入れ資金での投資は肯定されなくなる。また、中央銀行の緩和マネーが引き上げれば、その空いたポストを埋める資金は、世界のどこかの市場から流出してこなければならない。

リスク回避的になった投資家は、借り入れ資金によって保有していたポジションを解消し、債務を返済し始める。信用収縮の始まりである。重要なのは、このとき資金はどこかの市場から別の市場へと移動するのではなく、文字通り市場から消えるのである。

ある投資家のポジション解消が、レバレッジの消失という形で金融市場に存在する資金の規模そのものを減少させ、それによる金融資産の価格の下落が、また別の投資家のポジション解消を呼ぶ。これは自己強化的なプロセスであり、ひとたび開始すれば止めることは困難である。打つ手があるとすれば金融緩和の再開だが、先頭を走る米国ですらようやく金融引締めに着手した段階で、どれだけの緩和余地があるのか。

ちなみにFRBのパウエル議長は、株式市場と実体経済は分けて考えるべきというスタンスであるらしく、今年2月に起きた株価の急落を受けて、相場調整はFRBの仕事ではないとしている。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27605360S8A300C1FF8000/

また先月、9/27の発言の中で、肝心の米国実体経済については、「今後1-2年のリセッションの可能性が高まっていると考える理由はない」としている。

https://jp.reuters.com/article/usa-fed-powell-idJPL4N1WJ414

つまり、金融市場が信用収縮サイクルの開始を示しているとすると、今後の連鎖的な株価下落は避けられず、頼りの米中央銀行はというと経済の先行きに強気で、株式市場の下落など知ったことではないということである。