長期金利はどこまで上昇するか? 株価からの観点

「米国の長期金利はどこまで上昇するのか」という問いに対する答えは投資家が今一番知りたいことだろう。今回は株価を基準にこの問題を考えてみたい。

最初に現在の米国の長期金利について確認しておく。かなりの勢いで上昇しているが、これがどこまでいくのかということである。

長期金利をファンダメンタルズから考える場合、期待インフレ率と実質金利の動向を予想する必要がある。これは今後の米国のインフレと経済成長がどの程度になるかを見積もることとほぼ同義であり、なかなか出来ることではない。未曾有の危機に対して、未曾有の流動性供給が行われた後となればなおさらである。

長期金利が今後どうなるかについて、金融政策の面から考えることもできる。例えば上がった金利のせいで実体経済が減速したり、株式市場が急落したり、為替市場でドル高が行き過ぎれば、米国の中央銀行であるFRBは長期金利の動向に介入するかもしれない。

為替市場に影響が出始めていることは前回の記事で確認した。

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今回は株式市場の下落がFRBに金融政策の変更を迫る可能性について考えてみる。

2018年の下落相場からの学び

参考にするのは2018年の株式市場の下落局面である。当時、FRBは利上げとバランスシート縮小という二つの金融引き締め政策を進めていた。

この時期のS&P500指数のチャートを以下に示す。

時系列を整理すると、2018年10月初めに始まった株価の下落は10月末に高値から10%強程度下落したところで一度底打ちした。しばらく上下した後、株価は12月のFOMCの数日前から再び安値を更新し始め、FOMCで利上げの実施と共にパウエル議長が金融引き締めを止めない姿勢を見せると、年末にかけてさらに下落した。大底では高値からの下落率は20%を超えた。

年が明けた1月4日の討論会でパウエル議長が金融引き締めの停止もあり得ると示唆すると、これが市場への配慮と受け止められ、株価は急速に回復していく。株価の下落率という観点から見ると、パウエル議長は10%の下落では動かず、20%超えの下落で態度を改めたということになる。

ちなみに現在のS&P500指数のチャートは以下のようになっている。

長期金利の上昇を受けてやや下落しているものの、上昇基調はまだ崩れていない。4日の安値で見た下落率は約5%である。

2018年にFRBは株価の下落率が20%を超えたときに、金融引き締めという株安の原因を取り除いた。これを今の相場に置き換えると、FRBが市場へ介入して長期金利の上昇という株安の原因を取り除くのには、単純に20%の下落率を当てはめた場合で3100ドル台までの下落が必要ということになる。それまでは長期金利の上昇が見過ごされるという見積もりとなる。

金利上昇を静観するパウエル議長

実際に4日に行われた講演でパウエル議長は、引き続き現行の緩和的な政策を維持すると再表明しつつ、金利上昇についてはFRBによる介入が必要だと考えていないと述べている。

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今の金利水準、あるいは株価水準では何もしないということである。5%程度の下落で動かないのは当然かもしれないが、今後株価が安値を更新していった場合にこの姿勢がどう変化してくるかに注目である。

株価下落の原因の違い

株価の下落がFRBに政策転換を迫るという意味では2018年と現在は似ているが、その原因が何かという点は異なる。

まず、2018年当時の長期金利のチャートを見てもらいたい。

金融引き締めを理由に10月から年末にかけて株式市場が下落する間、長期金利は低下していたのである。金利が上昇している現在とは逆の状況である。長期金利が低下していたにもかかわらず株安が止まらなかったのは、当時の株安の原因が長期金利ではなく、FRBの金融引き締め強行姿勢そのものであったからだろう。一方で現在、FRBは金融緩和を行っており、株安の直接の原因は長期金利の上昇である。

さらに言えばその根拠も違う。2018年当時、FRBは量的緩和によって無理やり達成された低失業率を見て金融引き締めを進めたが、現在、市場が金融引き締めを織り込もうとしている理由はインフレである。

追い込まれた中央銀行

中央銀行は2018年には株式市場を救うことができたが、今回はもうダメかもしれない。なぜなら原因が異なるからである。

2018年はFRBの金融引き締めが株安の原因であったため、FRBは自らそれを取り除いて株安を止めることができた。しかし現在の株安の根本原因はインフレ(への懸念)であり、これを取り除こうと金融引き締めを行えば株安になってしまうし、かといって緩和を継続すればインフレに拍車を掛けてしまう。中央銀行はいよいよ手詰まりなのである。パウエル議長にできることがあるとすれば、市場参加者が心配するような高インフレが現実にならないことを祈るくらいだろう。

ただし、最終的には暗い結末しか待っていないとしても、そこに至るまでの道のりはパウエル議長自身が選ぶことができる。インフレの芽を摘むために金融引き締めを行い、実体経済と金融市場の両方を犠牲にするか、インフレが悪化しないことを祈りながら緩和を続けて問題を先送りにするかである。筆者は後者が選択されるほうをメインシナリオと考えている。

そうなると、インフレ率が徐々に高まっていく中で名目の金利に上限が課せられたような状況が想定されることになり、インフレが限界に達して緩和が続行不能になるまで実質金利は下がっていくことになる。この考えが最近の筆者の相場観の中心にある。

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まとめ

市場ではインフレに伴う金融引き締めを懸念して長期金利が上昇している。現時点でパウエル議長は金利動向に介入しない姿勢だが、長期金利が上がり過ぎれば実体経済にも金融市場にも悪影響が出るため、いずれ何らかの介入を迫られる可能性がある。それがどの水準かを株価の下落率という観点で考えた場合、S&P500指数が3100ドル台まで下落することがひとつの目安となる。また、中央銀行による株式市場のサポートが可能なのはインフレが許容可能なレベルに止まっている限りである。