テーパリング懸念は続くか、緩和継続シナリオのトレード戦略

前回の記事で、投資家がテーパリングを気にし始めている可能性と景気回復が株式市場の下落につながり得ることについて考えた。

長期金利上昇でぐらつく株式市場、実質金利の上昇が意味するものは何か

実質金利の上昇が今後も続くようなら、それは投資家がインフレ亢進による金融引き締めを心配し始めたことを示している可能性がある。その場合は、コロナ後の景気回復期待が株価に対してプラスのものからマイナスのものへ変わることになる。

ここで一つ疑問が湧いてくる。インフレ率が2%を超えていった場合、Fedは本当に金融引き締めを実施するのかということである。市場は律儀にもそれを織り込み始めているが、当のパウエル議長は景気が明確に改善するまでは金融政策を変更しないと表明している。

最大限の雇用という使命

米国の中央銀行であるFRBの使命は「物価の安定」と「最大限の雇用」である。仮に物価が高騰したとしても、今の状況で金融引き締めを実施してしまえば、新型コロナウイルスの影響で瀕死の状態にある航空産業やレジャー産業などの業界で企業の破綻が相次ぐだろう。そうなれば失業者が続出し、「最大限の雇用」という使命に反することになってしまう。

そもそも2008年の危機の後、FRBはほとんどの期間で金融緩和を続けていたのであり、既に低金利環境でしか生きていけない企業を多数生み出してしまっていた。本来、失業とは生産性の低いビジネスから生産性の高いビジネスへ、社会における人的リソースの再配置を促す役割を持っており、経済の新陳代謝に欠かせないものである。周期的な景気後退局面で起きる生産性の低いビジネスの淘汰はある程度必要なのである。

歴史的には70年代から80年代にかけて米国が高インフレに悩んだ時期、景気調整の主要ツールが財政政策から金融政策に変わった頃から、サイクルとしての自然な景気後退も許されないようになった。景気減速の兆候が見られるたびに積極的な利下げが行われた。そのことは米国の政策金利のチャートを見れば明らかである。

こうして一時的な失業を避けるために、どの景気後退局面でも過度な金融緩和が選択されてきたのである。

回復の鈍い労働市場

おそらく今回も同じである。パウエル議長は失業率のほか、労働参加率も気にしているようである。

FRBは失業率より就業者数を重視、M2忘れるべき=議長

失業率と労働参加率は以下のようになっている。

失業率は6.3%まで回復しているものの、コロナ直前の2020年2月の3.5%まではまだ相当な距離がある。労働参加率は61%台で改善が止まってしまっている。

パウエル議長が前回金融引き締めを行っていた2018年頃の失業率は4.0%を切っていた。労働参加率も63%に近かった。仮に今の状況で物価が上昇し始めたからといって、金融引き締めを実施するだろうか?

2018年の下落相場の経験

もう一つ加えるならば、2018年の金融引き締めは株式市場の急落を引き起こした。パウエル議長は当初、株安と金融引き締めは無関係との姿勢だったが、止まらない株安を見て金融引き締めを撤回したという経緯がある。

以下のS&P500のチャートで2018年の10月から始まった下落相場がそれである。

コロナショックに比べると小さく見えてしまうが、株価は20%を超えて下落したのである。当時よりはるかに高い位置に株価がある今、パウエル議長は金融引き締めを強行できるだろうか?

市場のテーパリング懸念が生む投資機会

というわけで筆者は物価が高騰してもFRBは金融引き締めを行わないのではと考えている。一方で市場がテーパリングを織り込みにいくのなら、そこには投資の機会が生まれる。物価の上昇とともに金融引き締めが懸念されて実質金利が上がり、やがて引き締めが実現しないとわかって実質金利が下がる。つまり実質金利は一度上がって、また戻ってくるのではないかということである。

もしそうであるとすると、実質金利の上昇で下落した株式やゴールドを買っておけば、実質金利が下がったときに利益を得られるだろう。

金利上昇に弱いハイテク株中心のNasdaq指数は下落し始めている。

ゴールドはさらに下落している。

ビットコインも下落している。

まとめ

市場では実質金利が上昇し始めており、これは投資家が物価高騰に伴うテーパリングを織り込もうとする動きかもしれない。一方で労働市場の低調さや2018年の金融引き締め失敗の経験が、パウエル議長に金融引き締めを躊躇させる可能性が高い。こうした市場と中央銀行の認識の差によって、実質金利は一度上がってから下がると予想され、実質金利上昇に併せて下落した株式やゴールドを買う戦略が考えられる。