ユーロ人民元の売り、ドル安以外の投資戦略を検討

最近の金融市場ではドル安がメインテーマになっており、様々な市場の動きがここに連動しているように思う。この記事ではドル安トレンドとは別の投資戦略を検討したい。

ドル安シナリオへの偏り

少し前の記事で筆者の現状認識を整理した。

景気回復期待と通貨からの逃避、現在の市場を読み解く二つの要因

現在の市場には通貨からの逃避という中長期のトレンドがベースとして存在し、そこに短期的には米国の景気回復期待が絡んできているというのが筆者の見解である。

昨年から続く株価やコモディティ価格の上昇の原因は、米国の金融緩和や現金給付などの流動性供給と考えられる。資産価格の高騰も、インフレ懸念も長期金利の上昇も全てが共通の根を持っており、元を辿れば大規模な流動性供給によって米ドルからの逃避が起きているというのが筆者の見解である。

問題はこのような認識が市場で広くコンセンサスとなっており、市場参加者の多くが同じものを見ているということである。株を買っても、米国債を売っても、原油やビットコインを買っても、基本的には同じものに賭けることになってしまうのではないかという気がしている。それはドル安というトレンドであり、言い換えれば米国のインフレ動向とそれに対する中央銀行の対応である。ドル建てでゴールドを買うことなどは、まさにドル安トレンドに賭ける戦略である。

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こうした状況でポートフォリオのリスクをコントロールするためには、ドル安トレンドと相関の小さい別のシナリオを探す必要がある。

低金利環境を享受するユーロ圏諸国

今月9日、スペインが65億ユーロの50年債を発行した。金利は1.45%だった。

Spain draws €65bn orders in sale of 50-year bonds

ユーロ圏ではここのところ低金利を活用した長期資金の調達が続いている。1月、フランスは金利0.5%で50年債を発行した。今月に入ってからは、ベルギーが0.65%で50年債を、ポルトガルが1%で30年債を発行した。これだけ低い金利にもかかわらず、これらの国債への需要は旺盛となっている。

ユーロ圏の長期金利のチャートを以下に示す。

コロナ前から続くECBの量的緩和によって、現在もユーロ圏の長期金利は記録的な低さにある。ジャネット・イエレン前FRB議長が米国の財務長官となったのに続き、最近ではマリオ・ドラギ前ECB議長がイタリア首相に就任するなど、2010年代の金融緩和を実施した人物が引き続き世界の要職に就いている。こうした緩和的な環境がまだ長く続きそうである。

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しかし、スペインやイタリアのような国がこれほどの低金利で資金を調達するのに、何のコストも支払わなくて済むことはないだろう。筆者はその代償がユーロ安という形で為替市場に出るのではと見ている。それがドル安とは別のシナリオである。

景気後退を紙幣発行で埋め合わせるユーロ圏

世界の主要国は量的緩和と財政支出でコロナショックを乗り切ろうとしているが、その中には例外がある。中国である。中国は量的緩和を用いず、また相対的に小規模な財政支出のみで2020年を乗り切った。

以下にIMFによる中国とユーロ圏諸国の実質GDP予測を示す。

コロナショックによる2020年の落ち込みと、景気対策とペントアップ需要による2021年の急回復が読み取れる。中国の経済成長率は2022年以降は元のトレンドに戻ると予想されているが、ユーロ圏諸国の経済成長率はこの先数年に渡って強含むことになっているようである。なぜそうなるのか? 2020年の数値から明らかなように、中国に比べて欧州ではコロナ被害が大きかったのではないのか。

その答えはEUの2021-2027年度予算案にある。予算案にはコロナ復興基金の名目で7500億ユーロが上乗せされている。

https://www.consilium.europa.eu/en/documents-publications/library/library-blog/posts/think-tanks-reports-on-covid-19-and-the-recovery-fund/

つまり、EUは大規模な景気対策によって経済成長率を押し上げようとしている。この復興基金に関しては、EU名義の共同債券により資金調達が行なわれるなど、EU財政統合に向けた一歩として評価される部分はあった。しかし借金は借金だろう。

そしてその借金を支えているのはECBの量的緩和である。前述したようにユーロ圏諸国が低金利で資金調達できているのは、ECBが新たに紙幣を発行して債券を買い入れているからである。そのことはECBのバランスシート規模の推移を見れば明らかである。

ECBバランスシート総額(単位 100万ユーロ)
https://tradingeconomics.com/euro-area/central-bank-balance-sheet

2020年以降、バランスシート規模が1.5倍程度に急拡大していることがわかる。EUあるいは加盟各国が低金利で調達した資金で景気支援を行うために、これだけの紙幣の新規発行が行われたということである。

対して、量的緩和を行わなかった中国人民銀行のバランスシート規模の推移を見てみると以下のようになっている。

中国人民銀行バランスシート総額(単位 1億元)
https://tradingeconomics.com/china/central-bank-balance-sheet

こちらは10%も増えていないことがわかる。

コロナと変わらないユーロ人民元レート

ユーロ圏と中国における景気後退への対応の違いを比較したところ、ユーロ圏では景気後退の程度が大きかったので、その分だけ大規模な紙幣発行を行うことで経済を支えようとしていることがわかった。何か違和感を覚えないだろうか? 何もないところから生み出した紙幣を経済に供給することで、失った経済成長を取り戻せるという話があり得るだろうか。これは経済学的にというよりも、常識的に考えてどうかということである。筆者は少なくとも通貨の希薄化というコストなしにそれを実現することはできないと考える。働く人が減っても、消費が減っても、中央銀行が電子的に通貨を発行すれば経済が維持できる。そういうことがあり得るのだろうか。

以下はユーロ人民元のチャートである。

5月にドイツとフランスが5000億ユーロ規模の(借金による)復興基金を提案したことでユーロは上昇した。7月にそれが7500億ユーロ規模で合意に至るとユーロはさらに上昇した。その後はユーロ安トレンドとなったが、11月のワクチン報道で景気回復期待が高まるとまたユーロは上昇した。そして現在、ユーロ人民元はコロナ前とほとんど変わらない水準に戻っている。

コロナ対策のために新規発行した紙幣の規模があれだけ異なるのに、ユーロと人民元の価値は以前と変わらないのだろうか。筆者には流動性供給規模の差がそのままユーロ人民元チャートの重力になっており、ユーロ圏における景気回復期待がそれに抗っているように見える。

まとめ

現在の金融市場は米国の景気対策に伴うドル安トレンドに関心が集中している。そうした状況でポートフォリオのリスクを管理するためには、ドル安と直接結びつかないようなテーマが必要となる。今回は中国とユーロ圏におけるコロナショックへの対応の違いに着目し、ユーロ人民元の下落に賭ける戦略を検討した。