ここのところの金融市場の動向を観察していると以下のような動きに整理できるように思う。
- 長期金利の上昇
- 資産価格の上昇
- コモディティ価格の上昇
- ドル安
これらの動きを細かく見ていくと、「景気回復期待」と「通貨からの逃避」という二つの要因が市場を動かしているように思われるので、一度整理しておきたい。まずは上記に挙げた市場動向を順番に確認してゆく。
長期金利の上昇
米国では緩やかながら着実な長期金利の上昇が続いている。
米国10年債金利

長短金利差の代表的な指標である5年債と30年債の利回り格差は5年ぶりの水準だという。
米国債利回り曲線、記録的なスティープ化-5年ぶりの大きな格差
金利上昇の中身を見てみると、期待インフレ率の上昇が寄与していることがわかる。実質金利は長期金利が上がり始めた昨年8月頃から横ばいである。

年明け以降、米国債の金利上昇に引っ張られる形で欧州や日本の長期金利にも上昇の気配がある。
ドイツ10年債金利

日本10年債金利

世界の金融市場はつながっているので、米国債の金利が上がるならば日欧の債券市場から資金が流出する理由になり得る。米国の長期金利が一つの水準に達したということなのかもしれない。
資産価格の上昇
以下は米国の主要株式指数であるS&P500指数のチャートである。

コロナ前の水準を易々と超えた後、高値を更新し続けている。ちなみに昨年の米国の実質GDP成長率は-3.5%であった。
上昇したのは株式市場だけではない。以下はS&Pケース・シラー住宅価格指数のチャートである。

注意して欲しいのが、これは住宅価格のチャートではなく、住宅価格の前年同月比の上昇率のチャートだということである。住宅価格の伸びはかなりの勢いで加速している。
コモディティ価格の上昇
コモディティ市場でも価格上昇が続いている。以下にいくつかのチャートを示す。
原油

銅

とうもろこし

大豆

原油や銅など実態経済の動向を反映しやすい商品の価格が上昇する一方で、経済動向との関連が比較的弱い穀物価格も上昇している。パンデミックによる供給面への影響やドル安による全体的なインフレ傾向が読み取れる。
ドルの上昇
為替市場では昨年からドル安トレンド続いていたが、短期的には反転した動きになっている。
ユーロドル

ドル円

ドル/人民元

ここまでのドル安の根拠は、新型コロナウイルスによる被害が米国でとりわけ大きく、世界でも例を見ないほどの金融緩和と政府による現金給付が行われたことだろう。現在はそのドル売りポジションが一部解消されている局面なのかもしれない。
何が読み取れるか
多くのチャートを並べたが、これらの動きから「景気回復期待」と「通貨からの逃避」という観点で考えてみる。
- 長期金利の上昇
- 資産価格の上昇
- コモディティ価格の上昇
- ドル安
これらのうち上から3つに関しては、景気回復期待と通貨からの逃避のどちらの要因も支えになると言えるだろう。景気が良くなるのであれば、基本的には金利も株価もコモディティ価格も上昇してよい。投資家が米ドルの希薄化を嫌う場合も、米国債は売られ、株式やコモディティに資金が流れ込んでよいだろうということである。
一方でドル安に関しては状況が異なる。ドルがユーロや円や人民元に対して下落してきたのは、コロナ対策として実施された紙幣印刷が最も大規模だったからである。したがって、米国経済が順調に回復していくならばドル安トレンドは収まるということになる。
やや単純化された議論ではあるが、マクロ的に状況を眺めれば無理な考えということもないだろう。
現在の市場には通貨からの逃避という中長期のトレンドがベースとして存在し、そこに短期的には米国の景気回復期待が絡んできているというのが筆者の見解である。金利上昇、株価上昇、コモディティ価格上昇という3つのトレンドが昨年から続く中で、先月5日のジョージア州での決選投票で民主党候補が勝利し、巨額の追加財政支出期待が膨らんだタイミングでドル安トレンドが反転したことが、いくらかの根拠となるだろう。(日欧の金利が米国債の金利上昇に反応したのもこの時期に見える。)
このような現状認識を元に、具体的な投資戦略について考えていく必要があるが、長くなったので別の記事に分けたい。