新型コロナウイルスを抑え込んだとされる中国で、ここのところ新規感染者数がわずかに増加している。現時点では再流行が起きる確率は低いが、もしもの場合に金融市場へ及ぼす影響は極めて大きいだろう。
中国の感染状況
年明け以降の中国本土の新規感染者数の推移は以下のようになっている。
- 1月2日 24人
- 1月3日 33人
- 1月4日 33人
- 1月5日 32人
- 1月6日 63人
- 1月7日 53人
- 1月8日 33人
- 1月9日 69人
- 1月10日 103人
- 1月11日 55人
- 1月12日 115人
- 1月13日 138人
- 1月14日 144人
- 1月15日 130人
出典: National Health Commission of the People’s Republic of China
増加傾向にあるものの、指数関数的な伸びには至っておらず、まだ感染再拡大の状態にはない。しかし14日の144人という数字は、1日あたりの新規感染者数として昨年3月1日以来の増加であり、無視できるものでもないだろう。こうした状況を受けて、既に2800万人以上がロックダウン下に置かれているという。
中国では2月12日に春節を控えており、例年なら里帰りなどで人の移動が盛んになる時期である。今年は不要不急の移動を避けることが呼びかけられているほか、移動者には14日間の隔離やPCR検査を義務付けるなどの措置が講じられている。
コロナ対応の成功と中国経済の台頭
昨年、中国はいち早く新型コロナウイルス感染拡大を押さえ込むことに成功し、主要国で唯一マイナス成長を回避したと見られている。
IMFによる主要国の2020年実質GDP成長率予測(2020年10月時点)は以下のようになっている。
- 米国 -4.3%
- ユーロ圏 -8.3%
- 中国 1.9%
- 日本 -5.3%
- 英国 -9.8%
2021年の予測を見ても中国経済は8.2%の成長が見込まれており、やはり主要国中トップである。また、新型コロナウイルスによる経済へのダメージがアジア圏で比較的小さかったことから、「中国を中心としたアジア手動の景気回復」というシナリオが期待されている。
このシナリオは2020年中にも現実になっている。14日に発表されたドイツの2020年の実質GDP成長率は−5.0%となったが、欧州各国と比べて見ると経済の縮小は小幅にとどまっている。新型コロナウイルスの悪影響はサービス業で大きい傾向があるが、ドイツ経済の中心は製造業である。そしてドイツの製造業は中国向けの輸出にサポートされているのである。
独GDP速報値、20年はコロナ禍で5%減 予想ほど落ち込まず
問題は中国で感染再拡大が起こった場合に、こうした楽観的なシナリオが崩れるということである。
市場の反応
最近の中国の新規感染者数の増加と、それに伴うロックダウン再開が報じられた結果、市場はどう反応しているだろうか。結論から言えばこれといった反応は見られない。
ここしばらく金融市場では米国の政治動向がテーマとなっており、ジョージア州上院選挙、米議事堂乱入、トランプ氏ツイート凍結・弾劾訴追、バイデン政権の景気対策など話題に事欠かなかった。市場ではこの間、株高と金利高が進んでいたが、14日にバイデン次期大統領が1.9兆ドル規模の追加経済対策案を発表し、パウエルFRB議長が緩和縮小議論を一蹴したことで一旦落ち着いた感がある。
中国の感染拡大状況に直接影響を受けそうな市場の動きを確認すると、以下のようになっている。
WTI原油価格

銅価格

CSI300指数

ドル/人民元

今のところ異常はないが、中国で再流行が起きるときにはこれらのチャートに変化があるはずである。
考えられる投資戦略
中国で再流行が起きる確率は今のところ低そうである。だからこれはメインの投資戦略にはなり得ない。しかし、もし現実になれば2020年以来の市場の動きが逆流する可能性があり、その意味でポートフォリオに加味する余地はあるのではないか。
筆者が検討しているのは以下の二つである。
1. エネルギー株の売り
財政・金融両面からの支援により市場では株高が続いており、株式市場が割高であるかどうかに関わらず、ある程度買わざるを得ない状況にある。そこで、株式のロングポジションをエネルギー株の売りでヘッジするのである。万が一、中国で再流行が起き、原油価格が下落するときには、エネルギー株は市場全体より大きく下落するだろう。
もっとも、エネルギー株には世界経済の回復による需要増というテーマの他に、バイデン政権によるクリーンエネルギーへの巨額投資という変動要因があるため、投資が複雑になるかもしれない。
2. 人民元の売り
2020年は米ドルに対する人民元高が進んだ。そのトレンドは現在も続いている。

米国の実質金利は-1.0%付近での推移が続いており、ドル安の原因となっている。米国の巨額の財政支出を理由に期待インフレ率は2.0%を超えてきており、FRBによる長期金利の上昇抑制を前提とすれば、この傾向はしばらく続きそうである。
中国での再流行はこのドル安人民元高のトレンドを逆流させる可能性を持っている。ドル安ポジションを持っている投資家はそのヘッジとして、人民元の売りを考えてもよいのではないか。
まとめ
現時点では中国における新型コロナウイルス再流行は起きていないし、起こりそうにもない。だから市場でもトレンドになっていない。しかし、2020年から長く続いているトレンドを根本から変える可能性を持っていることは頭に入れておくべきだろう。2020年には、起こりそうにないことが起きたのであり、投資家は実現してから動いたのでは遅いのである。