株式はインフレヘッジにならない

今月27日、28日にかけて行われたジャクソンホール会議において、FRBのパウエル議長は「平均インフレ目標」と呼ばれる金融政策の方針を発表した。

これは年2%の物価上昇目標について、過去の低インフレ時期を鑑みて、物価上昇率が2%を超えた場合も一定期間は容認するというものである。現在の大規模な金融緩和と財政支出策によってインフレ率が上昇しても、すぐには金融引き締めを行わないと宣言したことになる。

以前の記事で書いたとおり、今のところ筆者は米国でインフレ率が上昇するとは考えていない。

米国の景気支援策はインフレを起こさない

市場参加者が見込む将来のインフレ予想であるブレークイーブンインフレ率を見てみると、上昇傾向が続いており、10年では1.8%近くまで上がってきている。これはコロナ前の水準と同じであり、市場は経済対策によってデフレが回避されたと考えている。

また、この先5年、10年のインフレ率の平均が1.6%-1.8%だと考えるならば、7月のCPIが未だ1%付近であることから、数年後にはインフレ率が2%を超える状況も想定されていることになる。2%を超えるインフレをFRBが放置した結果、インフレ率が3%-5%にオーバーシュートする可能性もないとはいえない。

インフレの時代に備えたいとき投資家は何に投資すべきなのか。ここでは特に株式がインフレヘッジの役割を果たせるのかどうかを考えたい。

インフレが債券に与える影響

株式の前にまず債券について考える。満期までの利子の額が確定している債券にとって、インフレは明らかにマイナス要因である。例えばインフレ率が1%のときに利回り3%の債券があったとすると、その実質利回りは2%である。インフレ率が4%に上昇したときに、投資家が変わらず2%の実質利回りを要求するならば、債券の名目の利回りは6%に上昇しなければならない。これは債券価格の下落を意味する。

インフレが株式に与える影響

インフレが株式に与える影響については債券の場合ほど明確ではないが、筆者は「マイナスだが債券よりはマシ」と考えている。ここでは単純なモデルを用いて説明する。

まず株式の利回りを以下のように定義する。

利回り = 一株あたり利益 / 株価

債券のときと同じようにインフレ率が1%から4%に上昇した場合を考えると、株式が提供する利回りも3%だけ増えなければならない。そのためには、①一株あたり利益を増やすか、②株価が下落するかが必要となる。

利益の増加のみによって利回りを3%上昇させるには、上記の式から一株あたり利益が株価の3%分だけ増えなければならない。

理論的にはインフレ率が上昇した分だけ、企業が保有する生産設備や在庫、また販売する商品の価格も上昇するのであり、売上や利益も相応に増加するはずである。非常に単純なモデルとして、インフレにより売上高と売上原価がそれぞれ3%ずつ増えるならば、売上総利益が3%増え、したがって一株あたり利益も3%増えることになる。

整理すると、株式が利回りを3%増やすには一株あたり利益が株価の3%分増えなければならないが、インフレによる増加分は一株あたり利益の3%分程度になると考えられる。通常は株価のほうが一株あたり利益より大きいため、不足した利回りの増加分は株価の下落によって実現されなければならないだろう。

結論

以上より株式がインフレヘッジになるという考え方には賛同できない。もちろん企業によってインフレから受ける影響は様々だろう。インフレによって価値が上がる生産設備や不動産をどれだけ保有しているか、インフレに合わせて値上げできるか、事業コストに占める原材料費、人件費、設備費等の割合など考慮すべき点は多い。しかし、個人的には株式投資家が将来のインフレを懸念する場合、インフレ耐性のある企業を探すよりも、素直にゴールドや不動産などの現物資産に投資すべきだと考える。