コロナ前に戻った米国株式市場、上昇は続くのか

金融市場では株高と長期金利の低下が続いている。現在の市場の動きを大まかに整理したい。

株価と実体経済の乖離

米国の第2四半期の実質GDPが前期比年率で32.9%の減少となるなど、実体経済への深刻なダメージが明らかになる中、S&P500種株価指数はコロナ後の新高値を更新している。水準としてはコロナ前の最高値に極めて近づいている。

金融・財政両面からの支援によって抑えられている実体経済への悪影響が広がるのはこれからだというのに、株価だけは元に戻っているのである。

FRBによる流動性供給はすでに終了

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、3月以降、FRBはゼロ金利政策や量的緩和の再開などの政策を総動員した。これまでの株高の主要因はFRBの金融緩和によって低下した長期金利である。危機前に比べると1%以上低下していることがわかる。

米国債の金利だけでなく、FRBの社債買い入れプログラムによって社債の金利も低下している。危機前に比べて水準が下がっているわけではないが、2008年のような金利急騰が起きなかったことがわかる。社債市場の金利低下は現在も続いており、株価の上昇を支えている。

一方でマネタリーベースの推移を確認すると、6月頭あたりでピークを打ち、その後減少に転じている。

つまり、FRBによる量的緩和は実質的には2ヶ月前に終了しているといえる。にもかかわらず、市場では株高と債券高が両立されているのである。ここにおかしさがある。

もう一つのドライバー

FRBによる流動性供給以外に市場の資金源となっているものを考えると、米国政府から受け取った給付金や失業保険の上乗せ分を元手にして個人投資家が市場に参入していることが考えられるだろう。

失業者にのみ給付される失業保険のほうは主に生活費に充てられるかもしれないが、一律で10万円が給付された現金給付はお金に困っていない人の所得も増やしたのである。米国のIRS(内国歳入庁)によれば1億5900万人を上回る米国人に現金給付が行われ、支払い総額は2670億ドル(約29兆円)に及ぶという。

米国のコロナ給付、「総額30兆円」を1億6000万人に支払い完了

実際に4月から5月にかけて米国の家計では可処分所得の増加と貯蓄率の高まりが起こった。ロックダウン措置によりお金の使い道が限られる状況で、家計には投資に回すことのできる余分なお金があったのである。

現金給付が一度のみのものであったのに対して、週600ドルの失業保険の上乗せ分は7/31に失効するまで給付され続けていた。前掲のグラフを見ると、現金給付がほぼ完了した後の6月の可処分所得も前年比の伸びが大きくなっていることがわかる。失業者のなかには元の職に戻るよりも失業保険を受け取った方が所得が多いという人々も存在していたのだから、こうした資金が市場の支えになっていた可能性はある。

米国議会では追加経済対策の協議が続いており、失業保険の上乗せ分の減額も検討されている。いずれにせよ、景気支援の財政支出は永遠に続けられるものではなく、これまでの株高のドライバーの一つが失われつつあることは認識する必要があるだろう。

しわ寄せは為替市場に

FRBによる金融緩和が実質的に6月頭に終了し、追加経済対策が前回のものより小規模になるとすると次は誰が株式市場を支えるのだろうか。FRBが再び流動性供給を拡大するのか。まだやっていないというだけで、FRBは日銀のように株式を直接買い入れることもできる。

しかし、FRBが債券市場や株式市場を救う裏で犠牲になるのが為替市場である。最近はドル安がトレンドとして注目されており、5月終わり頃からのユーロドルの上昇はかなり急激である。総額7500億ユーロの復興基金創設が合意に至ったことや、米国に比べて欧州のコロナ感染状況が落ち着いていることなどが理由とされているが、だからといってユーロが魅力的かといえばそうではないだろう。

より早い段階から動きがあったのが金価格である。金価格はそもそもコロナ前から上昇傾向にあり、直近ではバブルの様相を見せ、ついに2000ドルを突破した。各国の通貨同士の変動よりもこちらのほうが、既存通貨の希薄化に対する投資家の反応としてより大きなトレンドであると思う。投資家は中央銀行による通貨増発を見過ごしてはくれないのである。

まとめ

金融・財政の両面から支えられてきた株式市場はその両輪を徐々に失いつつある。コロナ前と同水準の株価を肯定するためには更なる支援が必要となるが、その副作用はドル安や金価格の上昇という形ですでに現れている。

新型コロナウイルスによる実体経済へのダメージはこれから長く残り続けるのであり、被害の全体像はむしろこれから見えてくるのである。当局が通貨安や政府債務の増大をどこまで許容するかという程度の問題はあれ、現在の株高は極めて脆弱で時間制限付きの土台の上にあると言わざるを得ない。